DRINK ON EMPTY STMACH 005 - 1
2010年6月9日
飲むと死ぬ酒
飲むと死ぬから、飲むな
2001年4月 アフリカ南部・レソト王国 マレアレアの村のマレアレア・ロッジ
「ケニアには飲むと死ぬお酒があります。ついこの間もまた人が死にました。飲まないほうがいいですよ。いや、飲まないで下さい」
こんな恐ろしいアドバイスを受けたのは、アフリカ南部・レソト王国にあるマレアレアという村の一軒宿に泊まっていた、2001年4月のことでした。(01年2月から02年5月末まで1年と少し、私はアフリカをうろうろしておりました)
この宿で、SさんとKさんという二人の日本人女性に出会いました。Sさんはその頃ケニアのナイロビ在住で、Kさんは日本からアフリカ旅行に来たSさんの友人。SさんがKさんを案内してケニア周辺(東アフリカ)を旅して回り、その後はSさん自身もアフリカ南部を訪れてみたかったということで、二人してやってきたのだそうです。
レソトは周囲をぐるり南アフリカ共和国に囲まれた小さな国で、国土の大半が標高二〜三千メートルの山岳地帯にあり、「アフリカのスイス」とか「天空の王国」とか呼ばれています。観光客には、山岳地帯を馬で行くホース・トレッキングが人気。(ホース・トレッキングより、「馬で登山」のほうが、実際やってみた感じに近いですが)
ホース・トレッキングや、少年ガイドの案内による村ツアーなど、宿の観光アクティビティが三人以上で割安になる料金設定だったので、SさんとKさんに誘われて一緒に行動することが多くなり、またキッチン付きの自炊ができる宿だったこともあって晩飯も一緒に食べたりしていたのですが、宿のレストランから毎晩ワインを二本買ってきては、「さあ飲みましょう」と二人に付き合ってもらい、私一人で一本半ぐらい飲んでしまう…というようなことを繰り返していたある夜、Sさんに言われたのが、
「ケニアには飲むと死ぬお酒があります。ついこの間もまた人が死にました。飲まないほうがいいですよ。いや、飲まないで下さい」
でした。
たぶんSさんは、数日一緒に行動するうちに、私の飲酒行動(①毎晩大量に飲む。②飲んだことがない酒は片っ端から全部飲む。③飲んだことがある酒しかなくても結局飲む。)を見て、このおっさんはほっとくと間違いなく「飲むと死ぬ酒」を飲んで死ぬことになるだろうと思い、注意してくれたのでしょう。
それにしても、「飲むと死ぬから飲むな」とは、なんという恐ろしいアドバイスでしょうか。
なにしろ、「飲むと死ぬ」のです。こんな恐ろしいアドバイスをされたことは、他に一度もありません。
私はそれまで、飲むと死ぬのは「毒」だとばかり思っていたので、酒にも飲むと死ぬやつがあると知らされて、たいへん驚きました。しかも、「ついこの間もまた人が死にました」なのですから、驚かないほうがどうかしている。
昔、何かの本で「飲酒は緩慢な自殺だ」とフランスの誰かが言ったという話を読んだことがあり、その頃は若かったので「そんなこと言うなら人の一生そのものが緩慢な自殺のようなもんじゃねえか」と思いましたが、毎日毎日20年も飲み続けてみれば、「飲酒は緩慢な自殺」の本当の意味・恐ろしさを身をもって知るはめになる。でも、「飲むと死ぬ酒」は、その種の恐ろしさとはぜんぜん別で、「即死」です。「緩慢な自殺」ならまだしも、「酒飲んで即死」は、いくらなんでも嫌であります。